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「私だけの十字架」はテレビドラマ「特捜最前線」のテーマとして知られています。作詞は尾中美千絵、作曲木下忠司です。
イタリアの歌手であるファースト・チリアーノを起用し、哀愁感あふれる歌詞やメロディーで、何か戦後のイタリア映画をおもわせるような歌になっています。
同様にテレビドラマの主題歌である「二人の星」もイタリア歌手ミルバを起用し、こちらはよりカンツオーネ風に仕上げられています。こちらは木下忠司自身が作詞をしています。どちらも哀愁のあるメロディーで、木下忠司の作曲家としての器用さとやさしさが表れた作品といえます。
木下忠司は木下惠介監督の実弟として木下惠介作品をはじめ、日本映画界において、数多くの作品を残しています。担当した映画やドラマは400本にもおよび、六部構成にもなった小林正樹監督の「人間の条件」や時代劇、やくざ映画、アニメ、また「トラック野郎」など幅広く活躍しました。また映画やテレビの主題歌として、「喜びも悲しみも幾年月」「泣いてたまるか」「二人の世界」や水戸黄門のテーマ「ああ人生に涙あり」なども知られています。
木下忠司の音楽は映画のわき役、引き立て役としての音楽に徹しており、決して目立ちすぎることはありませんでした。
木下惠介は近年あまり注目されていませんが、エンターテイメントとしての映画ではなく、時代に流される市井の人々を優しい目で見つめている監督でした。戦時中の映画「陸軍」では、万歳三唱の群衆の中を出征する息子の後を、涙ながらに追い続ける母親の姿を描くラストシーンが有名です。陸軍から大いににらまれることもわかっていながら、勇気をもって人としてのこころを描いた素晴らしいシーンでした。
木下惠介の代表作の一つ「二十四の瞳」は壷井栄の原作で、楽しい生活から容赦なく戦争に巻き込まれていく女性教師とその教え子12名の悲劇と苦悩を通して、戦争の悲惨さを静かに描いた名作です。木下忠司の音楽は子供時代にだれでも習う童謡を使うことで、より身近な出来事としてとらえています。
木下忠司がプロデュースを兼ねた「赤い鳥のこころ」全26巻は、テレビ朝日系で上映された子供向けアニメで、鈴木三重吉を中心とした児童文学運動「赤い鳥」を原作としており、子供たちやその親に対して、人間が「生きる」という普遍的なテーマを真摯にとらえ、人間の不条理や人としての倫理観などをテーマにしています。ミラノで行われた国連の国際児童年ではグランプリを受賞しています。
情報があふれる今日、報道にも無関心になり、知らずのうちにプロパガンダに流され、世界中にはびこる不条理にもあまりにも注意が払われなくなってきました。日本においても合理性や経済効率ばかりが重視され、本来人として持っている感情が薄くなっているとさえ感じることがあります。
山梨日日新聞デジタル版に木下忠司百歳の時の取材で「木下忠司さんが残した言葉」
が掲載されました。文章の中で、中国で八路軍に対する警備にあたっていた時のことで、「先輩の軍人は現地の住民からものを奪う、一方自身が住民に敬意をもって接すると、野菜をもってきてくれたりする。接し方次第で友好的な関係を築けることを示唆する。」と伝えています。
昔から「話せばわかる」ということばがあります。じっくり人同士向かい合って話をすることは現代において非常に大切なこといえるのではないでしょうか?
